新聞記事を原稿用紙に書く意味
私が北海道新聞に入社したのは1990年(平成2年)でした。
最初の1年間は、原稿用紙に記事を書きました。
筆記具は水性ボールペンです。
会社の事務用品コーナーに山積みされた原稿用紙をつかみ、
ボールぺんてるを握る。
1枚目に書くのは
・仮見出し
・署名
2枚目から記事を書きます。
いろいろ決まりごとがありました。
あなたは新聞記者が書いた原稿用紙の文章を読んだことがないでしょう。
おもしろいですよ。
行の頭の1字下げは「Ω」と書きます。
「、」はその部分を右から包むように「<」を入れます。
「。」も同じ。
文章がすべて終わったら「ここでおしまい」という意味で「end」の意味で「3」を鏡に写したように反対向きに書く。eです。
余談ですが、毎日、こうして原稿を書くわけですから、癖になるのです。
手紙を書いても「、」を包み込むような「<」を入れてしまって。
もう一度、書き直すこともよくありました。
原稿用紙に向かって何を書こうかと考えるのは、新人時代の数カ月だけ。
記事スタイル、書く順番も書き方も決まっている。
この経験が大きいと感じます。
入社2年目からワープロが導入され、数年後からパソコンに切り替わりました。
後輩が原稿を書くのをのぞき見して、書き方が全然違うので驚いたこともありました。
後輩記者はとにかく知っていることを書き、後で文章を前後にしたり、挿入したり。
これではなかなか、新聞記事スタイルを頭に叩き込めません。
昔の新聞記者がモデルのテレビドラマでは、記者が書いた原稿をデスクが丸めてゴミ箱に入れるシーンがありました。
本当にそうでした。私も何度、原稿をゴミ箱に放り込まれたことか。
デスクはひと言「書き直せ」。
書く順番、表記、表現。すべてが決まっているのだから、その通りに書けという意味です。
私がこうしてブログを書いている時、文章を前後したり、挿入することはありません。
一度、読み直しますが、間違いでなければ、そのまま投稿します。
つまり、文章量に対して、あまり時間を取られていないのです。
これは、原稿用紙時代を少しだけでも経験したから。
書き出しはこうで、途中のエピソードはこれで、最後はこれを書く。
キーボードに向かう時はだいたい頭に構想があって、そのまま打ち込むのですから。
原稿用紙をゴミ箱に放り込んだデスクに「ありがたい」と感謝しているのです。
メディアコンサルタント・荒川岳志
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